2020年6月 3日 (水)

語彙力アップを目的としたiOSアプリ「Vocagraphy!」リリースとその後

2020年3月10日に語彙力アップを目的としたiOSアプリ「Vocagraphy!」をリリースしました。Facebookを中心にSNSではプロモーションをしてきましたが、このブログでも記録として残そうと思います。


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図:アプリの画面

実は、前回ブログを書いたのが2019年の10月末ごろ。ちょどその後にアプリの開発を開始しました。年末年始は両親の介護もありまして、いろいろとバタバタして(言い訳ですがw)、なかなかブログが書けませんでした。ようやく落ち着いたと思ったら新型コロナ騒ぎで、そして今になったということです。しかし、開発協力をして頂いた株式会社 夢現舎さんのご尽力により、予定通り3月にリリース出来て、本当に嬉しく思います。

 

-ポイント-

・スマホで画像を使った教材を簡単に作れるのが特徴。クイズもできて、評価を記録できる。

・3月10日にリリースし、Yahooニュース(八王子経済新聞)でも取り上げて頂きました。

・5月7日に英語版を世界リリースし、東京新聞にも取り上げて頂きました。

・現在取り組んでいる次のアップデート。

<開発経緯>
難聴児は聞こえにくいことが要因で、ことばを覚えるのに時間がかかります。そのため、毎日のように勉強を重ねて、ようやく語彙数が増えていきます。もし音が聞こえるとしたら、家庭、友だちとの遊び、テレビや街中などに溢れることばを自然に聞いて、どんどん吸収していきます。しかし、難聴児のパパとして、諦めるわけにはいきません。これまでの方法だと覚えるのが遅いのであれば、効率よく、楽しく、たくさん覚えられるようにすれば良いと考えて作ったのが「Vocagraphy!」です。スマホで簡単に自分だけのオリジナル教材を作り、いつでも、どこでも、楽しく、たくさん、ことばと画像に触れることが大切だと考えています。

たとえば、いつも歩いている道に咲いている花、そこにとまっている虫、道にある標識など、生活の中には覚えなければならないことばがたくさんあります。「Vocagraphy!」を使えば、身の回りのモノを"オリジナル教材"に変えることができるのです。写真を撮って、アプリに取り込み、ことばを入力するだけで完成します。

また、教材の中に「でんわ」ということばと"絵"があったとします。皆さんは「でんわ」と聞いて、どのような絵を思い浮かべるでしょうか。古い教材には昔の黒電話のような絵が書いてあるかもしれません。もしくは固定電話の子機やガラケーでしょうか。今ではスマートフォンも電話と呼びます。私は、子どもが覚えなければならないのは、これら全ての「でんわ」なのだと考えています。もしも聞こえるなら、「昔の電話は線でつながっていて・・・、最初の携帯電話はとても大きくて・・・」とお話をすれば、それほど時間をかけずに覚えるでしょう。しかし、同じことを聞こえにくい子どもに教えるには、時間と根気、そして工夫が必要です。

従来の「ことばカード」などでは、一つのことばに対して一つの"絵"が書いてありますが、「Vocagraphy!」では、一つのことばに対して、"複数の画像"を表示することが出来ます。しかも、自分で撮影した画像を割り当てられるのです。見たこともない機械の絵より、いつも見ているモノの方が親しみやすく覚えやすいからです。「でんわ」であれば、いつも見ているスマホのほか、ガラケー・親機・子機・公衆電話・黒電話などの写真を登録して、全てが「電話の仲間」だということや、「電話は遠くの人と話をする仕組み」という概念を教えてあげることができます。この話を子どもの習熟度に合わせて発展させれば、「昔」や「今」といった時間の概念や、「電波」や「インターネット」といった技術的な話まで広げることが出来ます。「Vocagraphy!」のメモ機能を活用して、少しずつ関連したストーリーを追記すれば、ことばを覚えるだけでなく、知性の発達につながるでしょう。

「Vocagraphy!」の使い方はシンプルです。カードを作り、写真を取り込み、文字を入れるだけ。使い方は自由ですので、自分なりのオリジナル教材を作ってみましょう。

 

<八王子経済新聞に掲載>

八王子経済新聞さんにオンラインで取材して頂き、3月10日のリリース当日にYahooニュースなどいろいろなWEB媒体で紹介して頂きました。

写真で作る「言葉カード」アプリ 東京工科大講師が難聴の愛娘のために考案

 

<英語版で世界リリースと東京新聞に掲載>

5月7日に英語版を世界リリースしました。Facebookで米国や欧州など一部の地域に広告を出して、アメリカやフランスでもダウンロードして頂いております。

難聴のまな娘にアプリ開発

 

<さて、次のアップデートは?!>

現在、他のデバイスに教材コンテンツを転送できないかという要望があり、取り組んでいます。また、Android版もやはり要望が多いですね。夏頃までには何とか開発を進めたいと考えています。より多くの方に使っていただき、もっとこうして欲しいという要望も頂きながら、使いやすいアプリに改良していきたいと思います。

 

 

2019年10月23日 (水)

日本特殊教育学会(2019年9月)レポート 〜インクルーシブ教育と日本のダイバーシティ〜

9月に広島大学で開催された日本特殊教育学会に参加しました。昨年は聴覚障害に関するシンポジウムが多数ありましたが、今回は少なかったように思います。今年のメインテーマは「多様な学習者の生涯を支える研究・実践の創造」ということで、インクルーシブ教育に関する講演やシンポジウムがいくつかありましたのでレポートいたします。まさに次女の小学校普通級生活も始まり、これからどうなるやらと不安な時期ですが、インクルーシブ教育の意味や世界の動向が伺えたので、とても参考になりました。


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図:特別記念講演が開催された広島大学サタケ・メモリアルホール

-ポイント-

・特別記念講演「国際バカロレア教育におけるインクルージョン」から、世界標準の「ダイバーシティ」を理解することができた。

・インクルーシブ教育を実現するための具体的なガイドラインとして、「学びのユニバーサルデザイン(UDL)」がある。

・英国やスコットランドにおけるインクルーシブ教育の報告があり、日本と比べるとかなり進んでいるため、インクルーシブ教育のお手本となり得ることが分かった。

・ 全盲の学者である広瀬浩二郎さんの言葉から、たくさんの勇気をもらった。「障害者」と「健常者」というこれまでの二項対立ではなく、本当の意味での共生が必要なのだと感じた。

2019年9月21日(土)から23日(月・祝)にかけて、日本特殊教育学会第57回大会が開催されました。ちょど台風が来ていたので飛行機が飛ぶかなど心配でしたが、(ギリギリ)問題なく往復出来ました。昨年同様、初日は仕事の都合で行けませんでしたが、2日、3日目についてレポートいたします。

 

<世界標準の「ダイバーシティ」とは>
今年のメインテーマは「多様な学習者の生涯を支える研究・実践の創造」ということで、私が一番注目したのは、特別記念講演として開催された「国際バカロレア教育におけるインクルージョン -インクルージョンを発展させるための活力ある学校づくり-」でした。1994年のサラマンカ声明、2006年の障害者の権利に関する条約などを受け、インクルーシブ教育システムの実現を推し進める動きが世界の潮流となってきています。次女が(昨年の人工内耳手術前のことを考えると)奇跡的に普通級に行けることになりましたが、「インクルージョン」は小学校だけではなく、ダイバーシティが求められている現代社会の大きなテーマでもあります。

国際バカロレア(以下、IB)は、50年以上にわたって世界中の学校に教育プログラムを提供してきました。対象児童は3歳から19歳で、年齢により4つのプログラムが用意されており、現在では150カ国以上の5,000校以上に導入されています。IBは、インクルージョンを「学習への障壁を特定し取り除くことで、すべての児童生徒の学習へのアクセスと積極的関与を促進する、現在進行中のプロセス」と定義しています。

1)平等性と公平性
平等性と公平性について語られるとき、よく用いられるのがこの図です。日本の公立小学校では未だ「平等性」が重視され、「公平性」についてあまり語られないのが実情ではないでしょうか。皆んなで同じことを、同じ時間に、同じ方法で学ぶことが殆どです。先生が特定の生徒に異なる指導をすると、保護者から「平等ではない!」と批判される恐れがあるのかもしれません。「なんでうちの子はこうなのに、あの子はこうやってるのですか? それはひいきじゃないですか?」みたいに。

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図:平等性(左)と公平性(右)を表したイラスト

 

2)IB教育における学習者とは
さて、IB教育における学習者とは誰のことなのでしょうか。それは、全ての児童生徒であり、以下の項目によって排除をしないと定義されています。

・社会的地位
・経済状態
・言語
・性別
・人種
・民族性
・Dis/ability(障害はここに含まれます)

『IBでは、「特別/普通/普通でない」と学習者にレッテルを貼らない』としています。また、「IBは学習環境が柔軟性を持っていることを期待する」ともあります。つまり、学習者の状況に合った学習環境を提供することに期待しているのです。IBでは学習環境の音響・照明・空間のあり方まで配慮されており、全ての学習者に不利益がないようにしているのです。

3)児童生徒への評価
児童生徒への評価には、以下の点において柔軟性が必要であるとしています。
・試験やコースの期間、あるいは締め切り
・教室
・試験の掲示や情報提供
・回答の方法
・人的援助の活用
・個々の児童生徒のための標準的ではない柔軟性>合理的な調整へのアクセス

児童生徒の本来の能力を正しく評価するためには、その児童生徒が能力を発揮できる環境下で評価する必要があります。良く考えればあたりまえのことですが、そうでないケースが多くあるのではないでしょうか。聴覚障害で例えれば、難聴児が聞こえにくいことが問題なのではなく、聞こえにくい環境で教育をしていることが「障害」なのだということです。


4)学びのユニバーサルデザイン(Universal Design for Learning Guidelines、以下UDL)
UDLは米国マサチューセッツ州にある研究団体CASTが障害の有無など様々な背景にかかわらず、多様な学習者すべてに等しく学習の機会を提供できるカリキュラム(教育の目標・方法・教材教具・評価)を開発するためにまとめ3つの原則と、それぞれに対応したチェックポイントで構成されています。

国際バカロレアが実践してきたことも、この考え方に近いということで、紹介がありました。様々な教育現場だけでなく、社会のあらゆる場面で活用できるのではないかと感じました。

UDLについて日本語で説明されているWEBサイト「UDL情報センター(http://www.andante-nishiogi.com/udl/)」より、UDLについての説明を引用させて頂きます。

---------------------
学びのユニバーサルデザインは 米国マサチューセッツ州にある研究団体CASTが障害の有無など様々な背景にかかわらず、多様な学習者すべてに等しく学習の機会を提供できるカリキュラム(教育の目標・方法・教材教具・評価)を開発するためにまとめ3つの原則と、それぞれに対応したチェックポイントで構成されています。

(中略)

学びのユニバーサルデザインとは?:
学びのユニバーサルデザインUDLは、全ての人に等しく学習の機会を提供するカリキュラムを開発するための一連の原則です。
UDLはすべての人に効果的な教育の目標、方法、教材教具、評価を作るための青写真を提供します―それはある一つのものであったり、全ての人に一つのものを合わせるような解決方法だったりということではなく、一人一人のニーズに合わせて変更(カスタマイズ)や調整が可能な、柔軟なアプローチを指します。
---------------------

CASTが提供しているUDLガイドライン等の日本語版がこちらからダウンロード出来ます。
http://www.andante-nishiogi.com/udl/

そして、英語ですがCASTの「The UDL Guidelines」はこちらです。
http://udlguidelines.cast.org

かなり膨大な情報量があるので正直私もまだ消化しきれていません。これからじっくり読み、教育者としても活用していきたいと考えています。

 

<英国やスコットランドにおけるインクルーシブ教育>
日本のインクルーシブ教育について考えるために、他の国についての事例報告を聞きました。学童期の体験は人格形成にかなり影響を及ぼすと考えられます。私も、学童期の体験が今でも頭をよぎることは良くありますし、今の人格の基礎がその時に作られたのだろうと思い当たる節もあります。

英国の場合:
すでにご存知の方も多いかもしれませんが、英国にはOfstedと呼ばれる学校評価があります。政府からも独立した組織のようで、アポイント無しで学校を訪問し、生徒へのインタビューも含め細かく調査を行うそうです。もちろん、インクルーシブ教育についても調査があり、教育方針に偏りがあれば注意されるようです。良い評価を得た学校は「Outstanding(優良)」や「Good(まあまあ良い)」といった垂れ幕を校門などに表示することが出来るとのことです。日本では考えられない仕組みですが、昨今の学校を取り巻く課題を考えると、このような仕組みがあっても良いのかもしれません。

スコットランドの場合:
スコットランドは英国を構成する一地域でありながら、独立した教育システムを持っています。スコットランド議会が発足して以降、全ての児童を原則として通常学校の通常学級で教育する、いわゆるインクルーシブ教育を推進してきました。そのため、特別学校在籍者数は減少しており、特別学校の数自体も減少傾向にあるようです。

同じクラスの中で同じ科目を実施しますが、習熟度や生徒の特性に応じてグループ分けをして、「先生による授業」「ワークシート」「ゲーム」など、方法を変えて授業を進めるそうです。リテラシー(読み書き)の授業では、他の教室に少人数ずつ呼ばれ、個別指導が行われているようです。また、スコットランドでは子どもたちの状況に応じて2学年を1つの学級にすることができ、優秀な生徒が1つ上の学年に混ざって一緒に授業を受けることがあるそうです。日本では「ふきこぼれ」と言われていることへの対策になるでしょう。

スコットランドのインクルーシブ教育はかなり進んでいますので、今後も学べることがたくさんあるでしょう。


<全盲の学者「広瀬浩二郎さん」のお話>
本学会において、一番インパクトがあったのが、全盲の学者「広瀬浩二郎さん」の話でした。広瀬さんの"障害"に対する考え方は、健常者にはなかなか想像するのが難しい、本当の意味での"ダイバーシティ"という考え方でした。

配布資料から少し言葉を借ります。

-------(以下、引用)-------
(前略)
「私たち(健常者)」と「彼ら(障害者)」の間には、対話を阻む檻が厳存していることを忘れてはならない。そもそも、社会全般を支配する"理"とは、健常者が創出したものである。障害者がこの"理"に合わせることを一方的に強いられるのなら、差別解消は絵に描いた餅で終わってしまう。「合理的配慮」の追求は、ややもすると「合理的排除」を惹起しかねないのである。
(後略)
-------(ここまで)-------

配布資料には沢山のことが書かれていますし、お話もかなりの内容がありましたら、ここだけ抜き出しても伝わらないかもしれません。しかし、広瀬さんがおっしゃることは正論だと感じたし、健常者目線でしか考えていなかった自分のことについても、ハッとさせられる話だったと思います。

広瀬さんは、「ユニバーサル・ミュージアム」という取り組みをされています。バリアフリーや弱者支援とは全く違う考えで、「視覚障害者が楽しめる→視覚以外の感覚への気づきを促す→視覚偏重の現代社会のあり方を問い直す」という流れで発展・深化しているとのこと。「見えない」のではなく「見ない」ことを選択するミュージアム。見える人は、パッと見て材質や大きさなどを把握してから触りますが、「あえて見ない」ことにより、手の感触から材質や大きさを想像しながらその作品を楽しむことが出来るのです。

今回配布された資料の中に、このように点字が一面にプリントされている展覧会のチラシがありました。点字があることで全盲の方にも情報が伝わるだけでなく、見える人にも凹凸があることで、デザインから何かを感じ取って欲しいというねらいがあるそうです。

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図:点字がプリントされたチラシ

「誰か」が「誰か」を助けるという考えから、みんなが「共生する」という社会に変わっていくのが、これからの時代なのだと感じました。確かに、私は聴覚障害の娘から沢山のことを学んでいます。私が彼女を助けているのではなく、お互いに大切なことを与え合っているのだと心の底から思います。これは、「誰」と「誰」だろうが、同じことが言えるでしょう。

 

<日本特殊教育学会とは>
日本特殊教育学会は、1963年の設立総会を兼ねた第1回大会の開催(東京教育大学)から半世紀余の歴史を数えます。当時は盲学校、聾学校教育の義務制の完成とその教員養成大学・学部が整備され、養護学校の設置、関係学習指導要領の告示、そして養護学校教員の養成課程開設の緒に就いたときです。高度経済成長を背景に、戦後の特殊教育の制度化、振興への胎動を強く感じられる頃でした。1979年の養護学校教育の義務制実施、1993年の通級による指導の制度化、1999年の学習指導要領の改訂による自立活動の成立と個別の指導計画の作成義務付け、そして2007年の特殊教育から特別支援教育制度への転換など、この間は、まさに特殊教育にとって激動のときでありました。本学会は、戦後のわが国の特殊教育とともに歩んできたといえます。2012年の大会は50回の節目を迎え、つくば国際会議場で多くの参加者を得て開催したところです。(後略)[日本特殊教育学会HPより]

詳しくはホームページをご参照ください。
一般社団法人 日本特殊教育学会 http://www.jase.jp

2019年8月19日 (月)

聴覚障害児を対象としたプログラミング教室を行ってみた感想

8月2日(金)に、いつもお世話になっていることばの教室で、プログラミング教室をやりました。昨年に続いて2回目です。本職のメディア教育と聴覚障害児をつなげる何かが出来ないかと考えたのがきっかけでした。来年、2020年度から小学校でプログラミング教育が必修化されますが、聴覚障害児にどんな配慮が必要なのかを検証しつつ、授業をどのように進めれば聴覚障害児でもプログラミングへの理解が深まるのかを考察・提案していきたいと思います。


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プログラミング教室の様子

-ポイント-

・先生の話を聞きながら、タブレットやパソコンを操作するのは、聴覚障害児にとってとても難しいこと。

・もともと新しい言葉を覚えるのが苦手な聴覚障害児にとって、英語を語源とした聞きなれないプログラミング用語が飛び交うと、話の内容を理解するのが難しい。

・ワークシートを用意したり、話を聞く時間と操作する時間を分けることで、理解度がかなりアップする。

昨年8月に初めて聴覚障害児を対象としたプログラミング教室を実施しました。その時は、娘のことがまだまだ大変(人工内耳の術後3ヶ月ちょっと) だったので、このブログでは紹介していませんでした。詳細は大学のウェブサイトに掲載されていますので、ご確認ください。

吉岡英樹メディア学部講師らが、田中美郷教育研究所との連携により難聴児を対象とした「夏休み子どもプログラミング体験教室」を開催。
https://www.teu.ac.jp/information/2018.html?id=190

昨年はコズモというロボットを使いましたが、開発元の米国Anki社が経営破綻してしまったため、今年はレゴとMITが共同開発したEV3というロボットを使いました。 コズモはAIを搭載したとっても可愛いロボットでしたので残念です。しかし、EV3を使ったプログラミング教室が増えてきていますので、体験しておくと将来的に役に立つでしょう。なお、聴覚障害児だけでなく、聴児の兄弟も参加しました。

昨年は聴覚障害児を対象とした授業を行うのが初めての経験でしたので、いろいろ改良しながら進めました。娘が難聴にも関わらず、やってみないと分からないことが多く反省の連続。大学で大人数相手の授業に慣れてしまっているのですが、やはりもっと配慮が必要なのだと改めて気づきました。主なポイントは以下の通りです。

 問題1)ロボットが自由に動き回れるように床に座って授業をしたが、プロジェクターに投影したスライド(目線が上)と床のロボットやタブレット(目線が下)を、目線がいったりきたりする中で、さらに私が話していることを聞くのは子どもたちにとってとても難しいことだった。

 問題2)授業中に大事だと思うことをメモするように伝えたが、何を書いて良いか分からない様子だった。授業の内容をきちんと理解出来ていない可能性が高い。

 問題3)体験型の学びを重視して楽しく遊びながらプログラミングが出来るコズモを使ったが、楽しいことだけが印象に残り、プログラミングについてどの程度理解出来たか定かでなかった。

昨年の反省点を踏まえ、今年は1から授業内容を作り直して臨みました。

 改善1)ワークシートを作成し、授業内容を確かめたり、大切なことを書き込んだりしながら進めた。これにより、授業の進行状況が分かり、何をメモすれば良いかも明確になった。聴覚障害児が話を少し聞き逃しても、手元の資料を見れば自分のペースで追いつくことが可能になった。

 改善2)先生がスクリーンの資料を見せながら話をする時間と、操作をする時間を明確に分けた。操作をしている時は、各テーブル(子ども2名)に学生スタッフ1名が個別に指導した。

 改善3)聴覚障害児だからということで内容を分かりやすくするのではなく、「プログラミングとは」など、伝えるべきことをしっかり含めつつ、それをさらに分かりやすく説明するようにした。最後に、プログラミングを学ぶ理由として、参加している子どもたちが生きるのは「society5.0」の時代であることを伝えた。

昨年と比較すると、授業としては格段に進歩したと思います。特に、ワークシートの導入は聴覚障害児にとって、とても役にたったようです。授業の準備に手間がかかりますが、その分理解をしてくれたので作った甲斐があったと思います。

逆に、聴覚障害児だからこその苦労もありました。例えば、ロボットに何を命令するかによって、+50にすると前に進む時もあれば、+50にすると右に曲がる時もあります。何の命令をしているのかを把握していなければ、違う結果になってしまいます。つまり、背景の文脈を理解し、何をするかを想像し、それをプログラミングに置き換えてロボットに分かる言葉に変換する必要があります。聴覚障害児は言葉を覚える際にも、同様の問題があります。もっとロジカルに考えることが出来るようにするために、さらに工夫が必要だなぁと思いました。

昨年も参加した子どもは、今年の方が少し難しかったと言っていました。これは意図したことなので、そう感じてくれて良かったと思います。ただ、もう少し楽しい要素も増やせたので、次回また改善しようと考えています。聴覚障害があるからプログラミングを学ぶのが困難であるとは感じませんでした。それよりも、情報提供の方法や説明方法を工夫することで、きちんと内容が伝われば、すぐに理解してモチベーションが上がっていくのだと感じました。

今度は、同じ内容を聞こえる子どもを対象に実施して比較することで、どのような違いがあるのかを検証しようと考えています。

2019年6月25日 (火)

小学校入学時に配布した「保護者の皆様へ」を公開します。

次女が小学校に入学する数ヶ月前から、学校と何度かやりとりをしたことを以前お話しました。その中でご紹介した、「保護者の皆様へ」という手紙を公開いたします。入学式の1週間後に開催された保護者会で、クラスの保護者の方々に配布しました。僭越ながら、これからインテグレーションを検討される方に、少しでも参考になればと思います。この手紙を配布した後に他の保護者の方と話をする際にとてもスムーズですし、皆さん「分かりやすかったです」と言って声をかけてくださいます。



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-ポイント-

・同じクラスの子どもが次女について親に聞いた時に、その親がある程度回答できるような内容にした。

・担任の先生が補聴システム用のマイクを首から下げるため、その理由を伝え理解を求めた。

・聞こえにくいこと、発音が良くないことなど、コミュニケーションにどのような問題があるのかを具体的に伝えた。

・私たちの連絡先を伝え、手紙だけでは分からない点があれば直接お知らせ頂くようにした。そして、このブログのURLを伝えた。
 

<「保護者の皆様へ」>

障害については、こちらからキッカケを作らないと、なかなか聞けないですよね。私も他の障害をもつお子さんに対しては、つっこんでは聞きにくいです。でも、子どものことを考えれば、出来るだけ詳しく知って頂いた方が、良い関係を築きやすいのではないかと思っています。

個人情報に関わる箇所は黒塗りしていますが、以下に全文を公開いたします。なお、担任の先生には配慮についてのお願いを書いたので、後日ご紹介します。

 

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2019年6月 5日 (水)

難聴児が「コミュ力」をどうやって高めるか?→これ聞こえる人にも当てはまりませんか?

5月26日(日)品川で開催されたコクレア オープンセミナーに参加してきました。登壇したのは、オーストラリアより来日した、世界有数の聴覚障害児療育機関「シェファードセンター(The Shepherd Centre)」で臨床プログラム部長を務めるアレイシャ・デイビスさんという女性です。コクレア 本社のある豪州ですから療育が進んでいるのは当然と考えていましたが、こんなにまで違うかと「驚きの連続」でした。こんな療育が日本にあったら娘のこれからの人生がどんなに変わるだろうか。そんなことを考えながら話を聞いていました。


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-ポイント-

・オーストラリアでは必要であれば生後6ヶ月で人工内耳手術をする。療育の成果を数値化したところ、生後1年で手術をした人よりも言語発達等の成果が良好であることが分かっている。

・小学校低学年では、「Theory of Mind(心の心理)」を中心に教育する。語彙や文法に気をとられがちだが、 コミュ力をつけるためには「心の心理」がとても重要である。

・目標を高く持ち努力すれば、周りの先入観ある大人たちを良い意味で裏切り、前例のない人生を切り開くことが出来る。高いコミュ力を必要とするER(救急医療) の現場で働く聴覚障害者が誕生したという事例がある。
 

 

<これからの療育はソーシャルスキルに重点をおく必要がある>

まず最初に、それぞれの難聴児に対して、漠然と療育を行うのではなく、目的を持って行う事が重要だと述べました。目的は本人だけでは決められないので、家族と一緒になって目的を設定することが重要だということです。

今回のセミナーにおける一番のテーマは、「ソーシャルスキル」をどう高めるかということでした。つまり、聞こえを良くして、言語を獲得することだけでは不十分で、6歳以降の学校での生活において、友達や先生といかにうまくコミュニケーションをし、社会に溶け込んでいくかに焦点を当てた療育が重要であるということです。これって、世間でよく聞く「コミュ力」のことですよね。話を聞いていると、聞こえる人にも当てはまることが沢山あるなぁと感じました。

 

以下がこの療育機関における評価項目で、常にチェックをして数値化しているようです。

 

<日本よりもかなり積極的な豪州の人工内耳手術とその成果>

豪州では、15年ほど前から生後6m(6ヶ月)の乳児に対して人工内耳の手術を行うようになりました。まずここで「驚き①」ですね。最近ではさらに早いケースもあるようです。数値を見ると、6mと12mでは言語発達に違いがあることがすでに分かっているようで、かなり積極的に手術が行われています(うちの娘は61mですが・・・)。AN児を持つ親として「驚き②」だったのは、ANSD(Auditory Neuropathy Spectrum Disorder)に対しても積極的に人工内耳をしているということです。日本では規制が強すぎて無理です(詳しくは過去のブログをご参照ください)。

生後半年で人工内耳の手術をした後、親へのセラピーや療育の指導、子どもにはデータに基づき音を聞く練習、喃語への導き、音楽を使った療育などを行うそうです。小学校にあがる前までに、学校生活を想定した聞こえのトレーニング、言語獲得、リテラシー(読解力や文章表現力)教育を行います。10メートル先から読んで分かるようにすることも一つの目標で、なぜなら学校ではそのような事が起こりうるから、、、ということで「驚き③」でした。さて、本題はここから。

 

<コミュ力アップに必要な「Theory of Mind(心の心理)>

小学校に入ると、低学年、中学年、高学年でそれぞれグループ療育があります。ソーシャルスキルの訓練ですので、個別ではなくグループで行うわけです。ガラスごしに先生と保護者が活動を観察し、説明や議論を行います。その内容を持ち帰り、家庭や学校で次の課題に向けて取り組むそうです。

低学年では、「Theory of Mind(心の心理)」を中心に指導します。難聴児は、自分以外の人がどのように考えているかを理解するのが苦手です。例えば、クッキーの箱を見せて「何が入っていると思う?」と聞くと「クッキー」と答えます。空けてみると「ブタ」のおもちゃが入っていました。そこへ、人形のトム君が来ました。「トムは箱の中身をしらないんだけど、彼は何が入っていると思っているかな?」と聞くと「ブタ」と答えます。ここで「クッキー」と答えるのが正しいわけです。相手の状況を想像し、その人がどのように考えるかを推測することが、社会に出てからのコミュニケーションで必要となるからです。また、これは難聴児に限りませんが、「ウソ」をつくことの重要性についても触れていました。子どもの心理に関する実験で、おもちゃに布を被せ、それに背中を向けて子どもを座らせます。「絶対に見てはだめよ」と言って大人は部屋を出ます。その間にほとんどの子どもはおもちゃを見るわけですね。大人が帰ってきて「おもちゃを見た?」と聞くと「見てない」とウソをつきます。これは、本当のことを言ったら相手(大人)に怒られると、心理を読んでいるからで、心の成長としては良いことなのです。

中学年については触れませんでしたが、高学年になると「なぜ自分は難聴として生まれてきたんだろう」といったことを考え出すので、そういったメンタル面のフォローも行なっているそうです。

小学校でソーシャルスキルを身につける手厚い指導は、まさに「驚き④」でした。もちろん、ソーシャルスキルも細かく評価して数値化することで、成長を追跡し指導に役立てます。

 

<目標に向かって障害を乗り越えよう!>

その数値を分析して分かったこととして、言語獲得が優秀だからといって、必ずしもソーシャルスキルの数値が高いとは限らないそうです。また、言語獲得の数値が少し低くても、ソーシャルスキルのある子どももいるようです。大切なのは、一人一人の子どもが苦手な部分をどのようにカバーして、ソーシャルスキルをアップさせるかという指導を行うことだということです。つまり、聞こえや言語獲得などは、障害の程度や種類によってある程度限界がありますが、獲得した言葉などをどのように使うかを身につけることは、訓練すれば上達するので、療育機関としてはこれからそこに重点を置いていきたいと述べていました。

さて、難聴児や家族が目的をもって療育に取り組むことが重要であると最初に述べました。今回のセミナーで最後に紹介されたのは、シェファードセンターから社会に出た青年のことでした。彼は、ER(救急医療)の現場で働きたいという目標を持って勉強をしていました。しかし、勉強が出来ても救急患者が次から次へと来るERで働くことは、聴覚障害者にとって並大抵なことではなく、周囲からも無理だと言われていました。しかし、彼は見事にERで働くことが出来ているのです。相当な努力をしたのだと思いますが、聞こえる人と聞こえない人の中間となる、人工内耳装用者の第1世代が社会で活躍し始めている一例として紹介されました。目標を高く持ち努力すれば、周りの先入観ある大人たちを良い意味で裏切り、前例のない人生を切り開くことが出来るのだと勇気付けられました。最後は驚きどころか、「感動」でした。

 

 



2019年4月 9日 (火)

小学校教育とミライのダイバーシティ

障害のある子どもが小学校に進学する際に、教育委員会による「就学相談」なるものを受ける必要があります。
1年間通ったろう学校幼稚部は、みなさんとても優しくて、少人数で手厚く指導して頂けたので本当に感謝しています。ただ、小学部に進学すると、1学年が多くても3人です。2人、1人かもしれません。しかも、バスと電車を乗り継ぎ片道45分かけて通うことになります。当然ろう学校に行かなければならないお子さんもいらっしゃるので、普通級にいかせたいというのは贅沢な悩みなのかもしれません。
しかし、次女の場合は両側人工内耳をしたのでお友達と音声でやりとりをすることが重要であることは、医師や言語聴覚士の先生も同じ考えです。平成28年4月1日より施行された「障害者差別解消法」により、公立の学校は障害のある子どもに対して合理的配慮をしなければ義務違反となります。本当の意味でのダイバーシティ(多様性)社会は、障害者とその家族の勇気ある一歩から始まるのではないでしょうか。
「就学相談」を終えて思うことをまとめます。

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(写真:バスと電車を乗り継ぎ片道45分かけてろう学校幼稚部に元気に通う次女)

-ポイント-

・就学相談は「申し込み」→「書類提出」→「面談(2回)」→「電話で結果通知」→「書類による結果通知」という流れ。

・次女の場合はめずらしい症状であることから難聴の発見が遅れたため、提出する書類の記入欄には全ての情報を書くことができない。そのため、A4 9ページに及ぶ説明書類を作成して添付した。

・「就学相談」という仕組みと「障害者差別解消法」という法律は、相反するものではないだろうか。

・ダイバーシティ社会への一歩は、障害者とその家族の勇気ある一歩から始まるのではないだろうか。

 

 

<就学相談の流れ(概要)>
健常者である長女が小学校にあがる時は、「就学相談」の存在さえ知りませんでした。療育などの関係者から、小学校にあがるには「就学相談」を受ける必要があることは聞いていました。しかも、地域によっては普通級に通わせたくても、それを認めてもらえない場合もあると聞きましたので、希望が通らないのではないかという不安をずっと抱えてきました。恐る恐る役所の担当窓口に申し込みをしたところ、「就学相談のご案内」という冊子をもらいましたので、その内容に沿って手順などをご紹介します。
この冊子によると、就学相談は以下のように説明されています。
(引用ここから)
「就学相談とは、障害や発達上の特性のあるお子さんの教育のために、保護者と教育委員会が行う就学に向けた相談です。お子さんが一番、力を発揮できる就学先はどこなのか、どのような支援が望ましいのか等、保護者の方と一緒に考えていくものです。就学相談は、保護者からの申し込みで始まり、保護者の意見を尊重しながら、以下の「就学相談の流れ」で進めていきます。お子さんが実り豊かな学校生活を送ることができるように、就学相談をご利用ください。」
(引用ここまで)
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図:就学相談の流れ
出展:就学相談のご案内(某自治体発行)
注意:自治体によって異なる場合があります

 

 

<就学相談の流れ(申し込みと書類提出)>
まず「1. 申し込み」は10月末までとあります。次女の場合は4月に人工内耳の手術をしたばかりですので、その効果が確認できてから就学相談をしようと考えていました。8月ごろには効果があることを実感し始めましたので、9月に申し込みをしました。知り合いの方は、軽度難聴で発達の遅れもあり、人工内耳等で改善が見込まれている訳ではなかったので、もっと早くから申し込みや相談をしていました。お子さんの状況により、遅くとも10月末までに申し込みをすると考えておけば良いと思います。ただ、申し込みが遅いと、その後のステップも当然遅くなりますので、その点はリスクとして考えておく必要があります。
次の「2. 書類の送付」ですが、うちの場合は決められた書類の記入欄にはとてもじゃないけど書ききれなかったので、独自に書類を作成しました。表紙から添付書類まで合わせると10ページ以上になりました。
目次は以下の通りです。

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1)はじめに
2)人工内耳装用までの経緯
3)人工内耳の効果と期待
4)普通級就学の希望理由
5)学校生活でのお願い
脚注
参考文献
添付書類
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[1)はじめに]には、なぜ普通級に行かせたいかという"強い思い"について書きました。また、住んでいる自治体のアクションプランにも目を通し、自分達がなぜここに住んでいて、なぜこれからもここで暮らし子どもを育てたいのかについても書きました。さらに、次女の場合は現時点の聴力で判断するのではなく、これから人工内耳の効果が出てくるという医学的根拠もあるということも書きました。

[2)人工内耳装用までの経緯]は、このブログに書いたことをまとめたので、記録がとても役に立ちました。

[3)人工内耳の効果と期待]は、昨年9月と今年の9月に行った知能テストの比較について書きました。言語性IQが明らかに伸びていること、複数の療育に通っていること、そして家庭学習に力をいれていることから、今後の成長が期待できることを説明しました。

[4)普通級就学の希望理由]には、長女と一緒に地域の学校に通わせたいこと、小中高だけでなく大学や就職先の選択肢を広げたいことなどを書きました。

[5)学校生活でのお願い]には、入学後にどのような配慮が必要になるのかを具体的に書きました。

会社の採用試験にポートフォリオを送る気分ですね。書類が一人歩きすると、どんな考えの方がどのように捉えるかが分かりませんので、誰が見ても我々の考えが理解できるように、念には念を入れて書いたつもりです。

書類を作成しているうちに10月下旬になってしまいました(実はこのころ親の介護が急に始まってしまいました・・・)。11月1日には普通級に進む子ども向けの「就学前健診」があり、次女の難聴はいずれにしてもここでひかっかり、就学相談にまわされることになります。「子どものことを考えて」という仕組みなのでしょうが、障害者フィルタリングのように思えてしまうのは私だけでしょうか、、、、。

そこで健診の前日である10月31日に小学校の校長と面談をしてもらうことにしました。これは妻の提案で、今考えるとこれがとても効果があったのではないかと推測しています。しかも、その校長は一昨年次女が通った幼稚園の園長も兼ねていたので、当時から補聴器装用や介助の相談をしていたのです。いざ面談にいくと、校長、副校長、長女の担任だった先生、スマイルルームの先生など多くの方にお集まりいただき、ちょっとびっくりしました。この学校に難聴の子どもが在籍しているという話は聞いたことがありませんので、皆さん人工内耳を見るのも初めてな様子でした。私たちの説明を聞いてもあまりフィードバックがありませんでしたが、おそらく皆さん初めてのことで、どう反応して良いのか分からなかったのではないかと推測します。ただ、最後に校長が次女に向かって「来年から元気に来て下さいね!」って言ってしまって。「あれ、就学相談は・・・・」と、ちょっと拍子抜けな感じで帰りました。小学校と教育委員会の温度差を感じた場面でした。しかし、やはり就学相談は受けなければなりません。

就学相談の流れに戻りますが、書類を送ったのがこの面談の直後で、その後は電話で面談の日程調整になります。年末ということもあり、年明けに改めて電話がくることになりました。

 

 

<就学相談の流れ(2回の面談)>

面談は「3. 相談員との面談」と「4. 専門委員会」の2回あります。うちの場合は、場所や時間の都合で順番が逆になり、「4. 専門委員会」が1月末、「3. 相談員との面談」が2月初旬に実施されました。

時系列で説明しますが、「4. 専門委員会」では、子どもは別室で教育現場の方々が様子をみます。教育現場の方とは、普通級の先生、難聴学級の先生、特別支援学校の先生、スマイルルームの方などが推測されます。どういう方が中にいるのか情報は頂けませんでしたが、終わってから次女に聞いたら、「ろう学校のO先生がいた」と言っていましたw その間、保護者は教育委員会の方と面談をして、親としての希望について話しをします。保護者も、子どもも、面談は15分ほどで終わります。

一方で、「3. 相談員との面談」は1時間以上の時間をかけて、じっくり子どもの様子をみたり、保護者ともより具体的な話をします。最初に、子どもは別室で田中ビネー知能検査を受けます。その後、さらに部屋を変えて遊んだり運動したりする様子を観察したようです。親は相談員の方とずっと話をしていました。資料を提出してありましたが、その内容についても改めて説明をしました。とても真摯に話を聞いて頂きましたし、適切なアドバイスを頂きました。

 

 

<就学相談の流れ(電話連絡と結果の通知)>
次女については3月上旬に開催される就学支援委員会で議論することになり、その後電話で結果を知らせるとのことでした。
就学支援委員会とは何かについて、冊子から引用します。
(引用ここから)
保護者の希望や、教育相談室や専門委員会でのお子さんの様子をもとに、医師、小・中学校長の代表、教育相談室の心理の相談員、特別支援学校の教諭等の幅広い意見と検討を加え、就学先についての意見をまとめます。
(引用ここまで)
電話連絡があったのは、確か3月11日ごろだったと思います。まず、「4. 専門委員会」では、簡単な指示は理解出来たが抽象的な質問になると答えられなかったことや、返答に困った時は黙ってしまい声が小さいので大きな集団の中では相手に伝わりにくいことが多くあるだろうとのことから、特別支援学校(聴覚)、つまり「ろう学校」に行った方が良いだろうとの結論に達したそうです。何人もの大人がいて、15分しか見なくて、まぁそれは仕方ないなぁという感じです。しかも、医療関係者はいませんので、娘の症状や人工内耳についてどの程度理解されているのか疑問です。
一方で、田中ビネー知能検査では、実際の年齢より約2ヶ月ほど上回る精神年齢というとても良い結果が出ました。娘は最初とても緊張していましたが、別室に行ってから頑張ったのだと分かり、いっぱい褒めてあげました。
以上のように、専門委員会(教育現場の方)はろう学校に行くべきと考え、それ以外の方は難聴学級に通いながら普通級に行くのが良いと意見が分かれたため、慎重に議論を重ねたそうです。どのような経緯で結論を出したのか説明はありませんでしたが、受け取った「就学支援委員会結果」という書面には、私たちが事前に用意した内容とほとんど同じことが書かれていました。
結果は、今はまだ聞こえにくいが人工内耳の効果が期待できるため、「難聴学級に通いながら普通級に行く」のが良いということでした。
意見が通ったのは喜ばしいことですが、もう少し他のやり方があるのではないかと感じています。私たちがすでに分かっていることを、念の為専門家の方々が見て確認したという作業だったのでしょうか。何か上から目線な手続きであることは間違いありませんし、ましてや娘の病状については我々の方が知識が豊富にあります。15分とか1時間で何が分かるのでしょうか。しかも娘は人前で消極的になりますが、家では積極的な娘の本来の姿があります。ご家庭によっては就学相談を必要としている方もいらっしゃるでしょうが、一律で障害のある子ども全員をふるいにかけるためのテストのようなことを行うのは、何か根本的にやり方が間違っていると言わざるを得ません。

 

 

<就学相談と障害者差別解消法>
文部科学省の中央教育審議会に関連する資料の中に、以下のような文言が書かれています。
(引用ここから)
(前略)
就学基準に該当する障害のある子どもは特別支援学校に原則就学するという従来の就学先決定の仕組みを改め、障害の状態、本人の教育的ニーズ、本人・保護者の意見、教育学、医学、心理学等専門的見地からの意見、学校や地域の状況等を踏まえた総合的な観点から就学先を決定する仕組みとすることが適当である。 (後略)
(引用ここまで)
前後の文脈はリンクからご確認頂ければと思いますが、「障害のある子どもは特別支援学校に原則就学するという従来の就学先決定の仕組みを改め 」とあるように、これまでは、障害者を健常者と分けて教育することが当然だと考えられてきました。また、この考え方は一部の関係者の中にまだ存在し、「本人のためだから」という言葉で隠された「差別」として障害児の将来の可能性を狭めているだけでなく、健常者が障害者のことを知る機会を奪っています。そのため、障害者への配慮をしたいと思ったとしても、知識や経験がなく、見当違いな配慮をして片付けてしまっているのではないでしょうか。
障害者差別解消法の目的は以下のように記されています。
(引用ここから)
全ての障害者が、障害者でない者と等しく、基本的人権を享有する個人としてその尊厳が重んぜられ、その尊厳にふさわしい生活を保障される権利を有することを踏まえ、障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本的な事項、行政機関等及び事業者における障害を理由とする差別を解消するための措置等を定めることにより、障害を理由とする差別の解消を推進し、もって全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に資することを目的とする。
(引用ここまで)
特別支援学校に行かなければならない障害者の方がいらっしゃることは知り合いにもいらっしゃいますし、私も理解しています。障害児が受ける教育の選択肢として、特別支援学校があるのはすばらしいことです。本人や家族が望んでいるなら、特別支援学校に行くべきだと思います。
ただ、本人もお姉ちゃんと小学校に行きたいし、保護者としてこれまで寄り添って悩みに悩んできた末に出した結論に対して、「それは違う」と言う事は、合理的配慮を最初から放棄していることになりますし、法律にも違反しているのではないでしょうか。
今回のケースでは、小学校の校長先生は受け入れる意思をすぐに表明して頂きました。それに対して教育委員会のもとで専門委員会が、15分ほどの観察のみで、なぜ反対意見を出す工程が必要なのか理解が出来ません。最終的には希望が通りましたが、後味の悪い就学相談でした。

 

 

<「迷惑」かけてもいいでしょ>
おそらく、これから次女は周りにたくさん迷惑をかけて、小学校生活を送ることになるでしょう。その迷惑を一つ一つ、先生やお友だちが解決してくれるのでしょう。日本では「周りに迷惑をかけないように」と育てられることが多いですが、それってどうなのかなぁと最近感じます。もちろん、故意に迷惑をかけるのは困りますが、「迷惑」をかけたくなくても「迷惑」をかけないと生きていけない人もたくさんいることを知って欲しいと感じています。それは、人によっては「迷惑」と感じないかもしれません。むしろ、手を差し伸べることで、自らが人に貢献したという満足感を感じることさえあるのではないでしょうか。
例えば、満員電車にベビーカーを押して乗車した人を「迷惑」だと感じる人もいれば、「かわいい子どもだな」とスペースを確保してあげる人もいるでしょう。
例えば、電車で落ち着きなく騒いでいる子どもを見たときに「迷惑」だと感じる人もいれば、「ADHD(注意欠陥多動性障害)なのかな、大変そうだな」と見守ってあげる人もいるでしょう。
例えば、声をかけたのにどいてくれない人がいた時に「迷惑」だと感じる人もいれば、「難聴なのかな」とジェスチャーを見せてコミュニケーションをとる人もいるでしょう。
難聴は見た目では分からない障害です。補聴器や人工内耳をしたからといって、皆さんと同じように聞こえているわけではありません。「聞こえにくい」人に対してどのような配慮が必要なのか、もっと分かりやすく伝えていく必要があるのでしょう。ダイバーシティ社会の実現には、障害者やその家族が当事者として情報発信をしていくことが不可欠ではないかと思います。

2019年3月 4日 (月)

両側人工内耳の絶大なる効果!

2つ目の人工内耳の音入れをしてからまだ1ヶ月なのに、すごい効果が表れています。中等度難聴の場合は人工内耳の適応基準に該当しないため、簡単には手術を許可して頂けません。しかし、オーディトリーニューロパチーの場合、なぜこんなに効果があるのでしょうか。次女を観察して感じたことを書きます。

Img_0750_1_2 (写真:娘の入院病棟より撮影)

-ポイント-

・中等度難聴のオーディトリーニューロパチーだと、「雑音」もそれなりに聞こえてしまうが、両側人工内耳になったことで音がクリアになったのではないか。

・音がクリアになったことで、音声だけで聞いた情報を理解する能力が大きく高まった。

・音声情報の理解が高まったことで、記憶が定着するようになった。語彙を覚えるのも早くなったし、間違えも少なくなった(以前はそもそも間違った聞き取りをしていた)。

・語彙を正確に理解したり覚えたり出来るようになり、文章の理解が深まった。そのため、概念を理解したり、物語を理解したり、歌を覚えたりということが可能になった。

<「ステレオミックス」として思うこと>
もともと私の専門は音楽音響制作・デジタルサウンドなどです。健聴者の場合は、左右の耳から音を聞き取り、音のする方向を感じたり、音を立体的に捉えたりします。音響機器としての「ステレオ」は、1960年ごろから始まり、1980年代にデジタル化が進みました。ソニーのカセット・ウォークマンにより音楽を持ち運ぶことが可能になり、その後iPodやスマートフォンで音楽を聴くことが日常の光景となりました。音楽を制作する際にはステレオミックスを行い、音楽がより立体的に聞こえるよう工夫して様々な楽器を左右に振り分けます。
その観点で娘の両側人工内耳について考えてみました。これまでの記事でご説明した通り、娘はある程度の音量で音自体は聞こえますが、中耳の段階で正しくない信号に変換されてしまうため、言葉が「にごった音」に聞こえます。さらに補聴器をしていましたので、その「にごった音」がさらに大きく聞こえていたのだと思います。

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昨年4月に右の人工内耳手術を行ったため、数ヶ月してからだいぶ聞こえるようになり、言葉をとても良く理解するようになりました。しかし、左は補聴器のままですので、正しくない音が大きく入力されます。最終的に脳では左右の音がまざって「ステレオミックス」として聞こえますので、まだクリアな音とは言えません。事実、娘は「人工内耳は好き、補聴器は嫌い」と言って、家では人工内耳だけを装用することが多くなりました。

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今年の1月に左の人工内耳手術を行いました。マッピング(電気信号の入力レベルを調整する作業)にも慣れているためか、入力レベルをどんどん上げることが出来たため、病院の先生が驚くほど早く聞こえるようになりました。しかも、両耳が人工内耳になったため、これまでの「にごった音」がなくなったのです。聞き取りは想像以上に良くなり、初めて聴く言葉もすぐに覚え、発音もとても良くなってきました。

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語彙を覚えることが早くなり、文章を早く理解できるようになったことで、物事の概念や本の物語などを理解することも出来るようになりました。また、覚えたことを自分で話せるようにもなり、会話(口話によるコミュニケーション)がより豊かになって来ました。以前は勉強した言葉をセリフのように覚えて繰り返すことしか出来ませんでしたが、今は「あの〜」「えーと」「あ、そっか」「ん〜」「えーー!」といった曖昧な表現も、正しく使えるようになってきたので、ようやく自然な会話に近づいて来ました。

最近は歌を歌うのが好きなようです。まだ音程はほとんどとれませんが、高い声、低い声を使い分ける程度のことはしています。リズムは以前からある程度とれていました。歌詞を覚えることが出来るようになったので、歌うのが楽しいのだと思います。

これらは健聴の子どもが自然にしている行為ですが、(全く同じではありませんが、、、)それに近いことが出来るようになったのです。まだ音入れから1ヶ月程度ですので、これから2年、3年と徐々に効果が出てくるはずです。

ステレオの話に戻りますが、もしヘッドフォンやイヤフォンの左側が壊れて雑音混じりの音になったらどうでしょう。「右側がキレイな音だからいいや」とはならないですよね。とても不快に感じて、修理するか新しいものを買うことになるでしょう。娘は生まれつき「キレイな音」を知らないので、何が正しいサウンドなのかは分からないでしょう。ただ、人工内耳をつけると明らかに「よく聞こえる」「お話が分かる」「楽しい」ということを、娘が最も実感しているのだと思います。

2019年1月 3日 (木)

就学相談と2つ目の人工内耳

※前回のブログを執筆した後に、親の介護対応等に追われていました。参加するはずだった学会もキャンセルしたため、そのご報告も出来なくなりました。もう落ち着きましたので、またブログを再開いたします。

いよいよ来年から小学校。何かしらの障害がある児童は就学相談なるものを受ける必要があります。ダイバーシティという言葉が広まる一方で、この仕組みには少々疑問があります。そんな中、2つ目の人工内耳を手術することも決まりました。5歳9ヶ月。難聴発覚から約2年。1つ目人工内耳の音入れから8ヶ月。2018年後半のご報告です。

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-ポイント-

・就学相談に関するネガティブな事前情報もあり、普通級を希望しても行けない可能性も?! これまでの経緯等を独自資料でまとめて、まずは区役所に関連書類を送付した。

・知能テストの結果から人工内耳の効果が明らかであるため、2つ目の人工内耳手術が決定した。

・1つ目人工内耳の音入れから8ヶ月が過ぎ、これまでは何だったんだろうと思うくらい、いろいろ成長している。

<就学相談について思うこと>
文部科学省のホームページに掲載されている資料によると、就学相談の必要性について以下のように記述されています。

以下引用>>
子ども一人一人の教育的ニーズに応じた支援を保障するためには、乳幼児期を含め早期からの教育相談や就学相談を行うことにより、本人・保護者に十分な情報を提供するとともに、幼稚園等において、保護者を含め関係者が教育的ニーズと必要な支援について共通理解を深めることにより、保護者の障害受容につなげ、その後の円滑な支援にもつなげていくことが重要である。また、本人・保護者と市町村教育委員会、学校等が、教育的ニーズと必要な支援について合意形成を図っていくことが重要である[1]。
<<ここまで

ただし、当事者(障害児の親)として感じているのは、「就学相談」という"篩(ふるい)"にかけられ、普通級で学ばせたいという思いを受け止めてもらえないのではという恐怖感だけです。難聴ではありませんが、肢体不自由児をお持ちの方とお話した際にも、この点について一致しました。そのお子さんは現在普通級で頑張っているようです。この「就学相談」について調べてみると、国が方針を定めているというより、各地域の教育委員会に任されているようです。これは教育のシステムそのものの歴史と関係があるのでしょう。ネットで調べていても、教育委員会が地域住民よりも教育関係者の意向を尊重していることを問題視している記事もあります[2]。

私たちは、言語聴覚士の方からいろいろアドバイスをして頂いていますが、「この地域はインテグレーションしやすい」とか「この地域は断られた実績がある」という話を聞きます。しかし、2016年より施行された「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(障害者差別解消法)」により、公立小中学校に対して障害児への「合理的配慮」が義務付けられていますので、ここは強気に構えるべきだと考え、「就学相談」に向けた準備を着々と進めることにしました。

自治体に就学相談の申し込みをすると、提出書類一式が渡されます。想像はしていましたが、この資料の記入欄は小さ過ぎて、我々のようなレアケースの場合は全ての内容を記入することが出来ません。そこで、独自に資料を作成して添付することにしました。就学相談に関わるのは、自治体の担当者、教育委員会、医療関係者、教育現場の方などですので、様々な観点で説明をする必要があります。現時点での難聴の症状だけでなく、人工内耳により今後どのように成長していく可能性があるのか、学校生活だけでなく社会に出てからどのように人生を送って欲しいかなどについて、夫婦でいろいろ話し合って書きました。

しかし、書いていて、地域の小学校に子どもを行かせたいだけなのに、「なんでここまでしなければならないのだろう」とふと疑問に感じました。自治体や教育委員会の方がどう思うかはともかく、小学校の校長はどのような意見をお持ちなのかと。そこで、妻の提案により就学時健診の前に校長先生と直接お話をすることにしました。実は、その校長先生は、ろう学校の前に通った公立幼稚園の園長先生を兼ねていたので、次女とも面識があったのです。その時は補聴器でしたが、いろいろ個別に対応して頂いたり、介助の方がついたりと、まさにインテグレーションをしていました。

いよいよ校長面談の日。私は勤務先から急いで戻り、ギリギリの時間に到着しました。久しぶりに緊張する面談です。部屋に入ると校長先生だけでなく、副校長など5,6名の先生が同席しました。さらに緊張・・・・。これまでの経緯(なぜ難聴の発見が遅れたかなど)、オーディトリーニューロパチーについて、人工内耳の説明、今後ことばがもっと成長していくこと、地域の学校に長女と一緒に通わせたいという思いを伝えました。私が知る限りはこの小学校に難聴の子どもはいませんし、先生方も人工内耳は初めて見るようでした。要望としては、前から2列目の黒板に向かって左側に座りたいといったことなどを伝えました。これは、右に人工内耳をしていることと、前に誰かがいると見て判断ができるということからです。

数十分話しをしていましたが、次女は持っていったおもちゃで静かに遊んでおり、問題はなさそうだという印象は与えたのではないかと思います。先方からはあまり意見はなく、最後に校長先生が「来年から元気に通ってね!」と一言。「あれ、、、、いいんですか?」と心の中で思いましたが、とても嬉しい一言でした。

発達障害のお子さんが多いことからか、就学相談は混んでいるそうで、2月ごろになるようです。後述しますが、2つ目の人工内耳の後ですし、コミュニケーション能力は着実に発達しているので、ちょうど良い時期になるかと思います。親として出来る限りのことはしましたし、これからもしていくのは当然です。もう就学相談で何を言われても良いという覚悟が出来ました。図々しい考えかもしれませんが、次女のような難聴児がいることを知るということは、健康なお子さんにとっても学びの場となることは間違いないと思います。見た目には分からない障害があるということを知ることになります。長女はそのおかげで、人間的にも成長していると思いますし、親も同様です。ダイバーシティを実現するには、マジョリティに寛容になってもらうというより、マイノリティが自信を持って発信していくことが重要なのではと考えるようになりました。


<2つ目の人工内耳>
就学相談もあるので、9月下旬に知能テスト(WISC-Ⅳ)を受けました。その結果、(簡略化しますが)昨年の知能テストに比べて、言語性の結果が倍近い点数になり、ほぼ平均並みとなりました。昨年はWPPSIだったので一概に比較は出来ませんが、人工内耳後の日々の生活が激変していますので、納得の結果ではあります。

2つ目の人工内耳についてはもう少し先かと思っていましたが、効果が明らかなので、言語聴覚士から小学校に入る前になるべく早く手術をした方が良いのではという提案がありました。早速主治医に知能テストの結果を見せて意向を伝えると、まぁこれまで見たこともないような喜んだ様子で、手術についてもあっさり許可して頂きました。2つ目(左)は1月下旬に手術をします。

両側に人工内耳をすると、音の定位を認識するようになり、どちらから音がしているかが分かるようになると聞いています。今は、家でかくれんぼをしても、探すのがかなり難しいようです。すぐ近くのドアの後ろに隠れて大きな声で名前を呼んでも、全く分からないようです。両側にしたら、かくれんぼができるのでしょうか、、、。


<音入れ8ヶ月の効果>
前述した通り、1つ目の人工内耳(右)の効果は明らかです。補聴器の時は出来なかったのに、人工内耳の術後に出来るようになったことをリストアップします。

・5音節以上の言葉を聞き取ったり、リピートしたり、覚えたりすることが可能になった。わりと長くても大丈夫。
・一度覚えた言葉が定着するようになった。以前は何度書いて覚えても、すぐに忘れてしまった。
・発音がどんどん良くなっている。これまでは、だいたい母音に聞こえる感じでしたが、「さ行」「た行」「な行」「は行」「ま行」「や行」「ら行」「わ」はだいたい言えるし、こちらも聞き取れる。課題は、濁音の有無の区別、拗音(ようおん)、伸ばし棒の位置。
・電話で話して相手に伝わるようになった。相手の声はまだ良く分からない様子。
・知っている名詞、動詞、形容詞、接続詞が増えてきたので、概念の説明を理解できるようになってきた。
・オノマトペを覚え、自発的に使っている。
・唇を見ないでも会話が成立する。
・おそらくもっとあります・・・。

最後に、一番驚いているのは、お風呂などで人工内耳を外しているのに、少し手話を使うくらいでコミュニケーションが成り立ちます。私が家の中でメガネを外しても、勘で生活出来るのと似ているのかもしれません。でも、話しをするのは良いけど聞こえていないので、一方的にガンガンしゃべってくるのは、ちょっと困りますがw こちらの手話がついていかないと返事が出来ませんので。

あと約2週間で手術です。体調を崩すと手術が延期になる可能性があるので、ここからは体調管理をしっかりしないといけません。最初の手術の時は心配で仕方ありませんでしたが、今回は期待の方が大きく上回っています。おねえちゃんと一緒に小学校に行くともう決めていますがw、そのくらいの勢いで前に進んで行きたいと思います。

<参考文献>
[1]文部科学省(2012)「特別支援教育の在り方に関する特別委員会報告」<http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/siryo/attach/1325886.htm
> 2019年1月3日アクセス.
[2]文部科学省「教育委員会の在り方」<http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo1/003/gijiroku/04112501/001/002.htm > 2019年1月3日アクセス.
[3]文部科学省(2010)「合理的配慮について」 < http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/044/attach/1297380.htm > 2019年1月3日アクセス.

2018年10月10日 (水)

日本特殊教育学会(2018年9月)レポート

9月に大阪で開催された日本特殊教育学会に参加したので、難聴に関するシンポジウムを中心にレポートします。これまで様々な論文を読んで来ましたが、それらの著者の方々から直接お話が伺える貴重な体験となりました。

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-ポイント-

・デフバスケットボール世界選手権で準優勝をしたチームのメンバーがどのようにコミュニケーションをとっていたかという感動的な話。

・特別支援学校が特殊教育においてセンター的機能を果たす取り組みが、文科省主導で行われてきたが、我が家はまさにそのブラックホール的な穴に吸い込まれていたことを実感した。

・「絵日記はこう書こう!」というとても分かりやすい話を聞けたことで、我が家の絵日記でも早速実践。

・難聴特別支援学級が増加しているが、教員の育成が追いついていないという現状。地域格差もある。


<日本特殊教育学会とは>
公式ホームページによると、1963に設立された本学会は、当時の盲学校、聾学校教育の義務制の完成とその教員養成大学・学部が整備された時期で、戦後の特殊教育の制度化、振興への胎動を強く感じられる頃だったということです。2007年には特殊教育から特別支援教育制度への転換があり、日本における特殊教育は時代と共に激変してきたようです。社会が変わり、法律や制度が変わり、現場の方々もさぞかし苦労されて来たのだろうと推測します。

詳しくはホームページをご参照ください。

一般社団法人 日本特殊教育学会 http://www.jase.jp

2018年9月22日(土)から24日(月)にかけて第56回大会が大阪で開催されましたが、初日は仕事で行けなかったので、残りの2日に参加しました。全国の特別支援学校関係者と思われる方々や、まだ学生でこの分野について学んでいると思われる方々など、本当に多くの参加者がいました。これまで次女の障がいについて、妻とインターネットで調査をしたり、数人の専門家に相談したりという感じで正直孤独感がありましたが、こんなに多くの方が特殊教育に関わっていらっしゃるのだなぁと実感し、心強さを感じました。より多くの専門家の経験や知見を吸収して、次女をより良い方向に導いていければと実感しました。

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様々な特殊教育に関するシンポジウム、口頭発表、ポスター発表が同時並行で多数開催されていましたので、興味のあるもの全てに参加することが出来ませんでしたが、苦渋の選択により現時点で最も興味のあるセッションに限定して参加しました。

<第3回U21デフバスケットボール世界選手権(女子)で準優勝>
このタイトルだけを聞くと、「日本の女子デフバスケットボールって強いんだ〜」と思ってしまいますが、実は昨年までは参加することさえ考えられなかったそうです。また、今年度もメンバーが集まるのかさえ危うかったとの話もありました。
なぜなら、どこに難聴でバスケットボールが上手な選手がいるかも分からないし、合宿に参加する際の交通費などの費用も実費だし、難聴の種類も様々なのでどのようにコミュニケーションをとるかも決まっていないしと、前途多難な状況だったようです。
プレイをする際は補聴器具を外さなければならないので、手話やジェスチャーを使うようです。全員が手話が出来る訳ではないので大変ですし、常に両手を使って手話をしていたら、プレーにも支障が出そうです。

今回の発表の目的は当然バスケットボールに関することではありません。メンバーがどのようにコミュニケーションをとり、どのようにチームワークを育んだかという話でした。聴者であったとしても、見ず知らずの若者が集まって結束するのは簡単ではないことは言うまでもありません。今はスマホとLINEがありますから、練習後にそれぞれの地域に戻ってからも、文字によるコミュニケーションをとっていたそうです。ただ、最初は一言返信するだけとか、返事さえもないメンバーがいる状況だったようです。

ここから様々な困難を乗り越えたようですが、ここでは省略します。練習を繰り返すうちに、LINEのやりとりがとっても活性化されたそうです。全員が1回につき数百文字ものコメントを送るようになったのがそれを表しているとのこと。SNSがなかった時代には考えられない事ではないでしょうか。文字によるリアルタイムのコミュニケーション手段があるというのは、難聴者が人間関係を築くのにとても役立つのだなぁと改めて思いました。ただ、SNSがあるというだけでなく、同じ目標をもって定期的に顔を合わせて練習をしたからこそなのでしょう。

メンバーのうちの一人は、通っている普通級のバスケットボール部に戻ってから、周りの聴者の生徒たちからも尊敬され、これまで以上に良い関係を築けているそうです。世界選手権という大きな目標に向けて、難聴という共通点をシェアし、さらに大きな結果まで出したというとても感動的なお話でした。詳しくは「デフバスケットボール 世界選手権」で検索すると、いろいろ出てきます。

<インクルーシブ教育と特別支援学校のセンター的役割について>
世界的にダイバーシティというキーワードが重要視されている中、日本の教育においてもインクルーシブ教育システムを構築しようという動きがあり、文科省を中心に様々な事業が行われてきました。その中で、特別支援学校がセンター的な役割を果たすことが求められています。

本学会では、難聴児教育におけるこれまでの成果が発表されました。まず、新生児スクリーニングが強化されたことにより、難聴児の早期発見数は増えており、1,000人に1.5人が難聴児として産まれてくることが分かっています(以前は1,000人に1人と言われていました)。また、補聴器や人工内耳といった技術の発展により、ある程度聞こえるようになる難聴児が増えています。しかし、小さな乳児に補聴器を装着することはとても難しく、出産後の育児はただでさえ大変な上に、産まれたばかりの赤ちゃんに補聴器を装着しなければならないことは、多くのお母さんにとってストレスとなっているようです。また、新生児スクリーニングで難聴と分かった場合、特にお母さんが受ける精神的負担が大きく、子どもの将来への不安などを和らげるようなカウンセリングも重要となります。特別支援学校では、乳幼児教育相談を実施しており、相談件数は増加傾向にあるそうです。

つまり、難聴児の教育において、自治体・病院・特別支援学校による連携が重要で、その中でも特別支援学校がセンター的機能を果たすことが期待されているのです。

とここまで書きましたが、つまりうちの次女が新生児スクリーニングで漏れ、その後の医療機関での相談でも漏れ、これだけ発見と療育開始が遅くなったということは、本学会では触れられることはなく、とーーーーってもレアケースという扱いになるのだなぁと改めて感じました。

我が家と同じことが繰り返されて欲しくないのですが、今回の収穫として、特別支援教育についての調査機関があることが分かりましたので、後日次女のようなケースがあることをしっかり報告しようと考えています。そして、今でもどこかで調査から漏れている子どもがいるかもしれませんが、一人でも多くの難聴児が早期発見・早期療育へ進めるよう情報発信や活動をしていきたいと改めて思いました。

<絵日記はこう書く!>
難聴児は絵日記を書くのが良いと言われており、世界中のろう学校で実践されています。健聴の子どもであれば両親が話すことば、お友達が話すことば、テレビなどから流れてくることば、街中で聞こえることばが自然と入ってきて、様々な単語・文章・言い回しを覚えます。しかし、難聴児にはそれらの体験がほとんど無いため、絵日記を書くことで思い返し、記憶に残し、また改めて見たりすることで言葉を少しずつ習得します。

我々も絵日記を書いた方が良いということは知っていたので、少しずつ実践していました。特に、ろう学校に入ると毎日書くので、今年の始めくらいからなるべく毎日書くようにしています。

しかし、よく考えて見ると、何をどのように書くのが良いのかなど、その方法論を教わったことがありません。一生懸命書いたり、写真を貼ったりしていましたが、何が正解なのかあまり考える余裕がなかったとも言えます。本学会で絵日記についての事例紹介と議論の場がありましたので参加しました。

1)書く内容
ずばり、「子どもの心が動いた瞬間」を書きましょうとのこと。「なるほど〜」と思いました。「遊園地へ行ったよ〜」とか、「海へ行ったよ〜」とかいう絵日記をたくさん書く人がいるのだけど、その内容を日常生活で見返しても、あまり活用できることがないということです。それよりも、毎日送っている生活の中で、子どもが驚いたり、喜んだり、楽しんだり、悲しんだりしたことを書くのが良いということです。ろう学校では、それを先生やお友だちと共有して、場合によっては再現してみることもあるそうです。そうすることで、体験が言葉(文字・手話・音声)として頭に入り、記憶として定着します。言われてみればそうなんですが、これまで書いてきた絵日記は、やはり「どこどこへ行きましたー」みたいのが多かったなと反省しました。

また、「子どもの心が動いた瞬間」を捉えるには、親と子どもの距離が重要なカギとなります。つまり、子どもの心が動いた瞬間をしっかり理解し、それに気づかせてあげられるかどうかは、親としての能力も試されることになります。忙しくて自分のことで手一杯になっては、気づいてあげることが出来ませんから。この話を聞いてからは、子どもが心でどう感じているかを観察するようになりました。ちょっとした表情の変化も見逃さないように。難聴でなくても、とても大切なことかも知れませんね。

2)大人が教えたい事を優先しない。
はい。すみません。していましたww
「今日はこの言葉を覚えさせよう」とか、「そういえばこの言葉は他の子どもたちは知ってるよな」とか、、、、反省ばかりです。

3)話題を一つに絞る。
これは、なんとなく理解はしていました。いろいろ書きたくなりますが、我慢して話題は一つにしましょう。あと、写真は1、2枚にしましょう。

4)子どもが話せる&話したい内容にする。
家では一緒に絵日記を書いても、それをろう学校で先生やお友だちとシェアしたいと感じるかどうかが重要とのことです。言われてみれば、そうですね。みんなに話したいと自ら思えば、積極的に話そうとしますね。大人でも同じでしょう。これは探り探りではありますが、何を書くか、心が動いたなと思った瞬間に、「これ絵日記に書く?」と聞いたりしています。その反応を見て、書きたそうな時は割とスムーズに絵日記を書いているように思います。

5)感情が伴う言葉を使う。
これもなんとなく理解はしていましたが、改めて気にすべきことだと感じました。心が動いた瞬間なので、それをどのような言葉で表現するかは大切ですね。最近はオノマトペも少し覚えてきたので、日本語の豊かな表現が習得できると良いですね。

6)未来のことや今後の予定でも良い。
これはオプションですが、日記だからといって、必ずしも過去のことでなくても良いそうです。確かに、日常生活において、週末の予定や次の連休の話をしますよね。そして、旅行について話すとワクワクします。これはまだ実践できていないのですが、今度トライしようと思います。

今回のセッションでのポイントは以上ですが、絵日記に関するシンポジウムは毎年行なっているようですので、また来年聞きたいと思います。

<難聴特別支援学級の増加とその課題>
今回は東北における難聴特別支援学級についての事例が報告されました。難聴特別支援学級はろう学校と異なり、普通級のある小学校や中学校に併設されており、難聴の子どもの言葉に関する教育を指導しています。併設されていない学校の場合は、一番近くにある難聴通級指導教室に通います。ちなみに、私の住む地域は"学級"がないので"通級"に通う選択肢しかありません。

今回の報告では、"難聴特別支援 学級"が増加しているという話でした。前述したように難聴児は早期発見により増加していますので当然と言えば当然のことではあります。ただ、ここで課題なのは、そこで教える方々の85%が経験不足の教員であるということです。難聴児の指導は慣れていないと本当にどうして良いのか分からないと思います。また、個々の症状によっても対応が異なりますし、親がどのように育てたいかという思想も絡んでくるでしょう。

この問題はすぐに解決するものではないと思いますが、現在の実験的な事業から、しっかりとした制度や法律へと進展し、予算を確保して人材育成がしっかり行われる事を願います。なお、今回のセッションには特別支援学校出身の文科省の方も参加されていたので、とても心強く感じました。

<おわりに>
初めて参加した日本特殊教育学会でしたが、とっても刺激的な2日間でした。初日は仕事で参加できませんでしたが、興味のあるセッションが沢山ありました。また、参加した日程でも、同時並行で開催されていたセッションも沢山ありました。

何よりも、これだけ多くの方が真剣に取り組んでいらっしゃることを知ることが出来たのが、障がい児を持つ親として最も嬉しかったし、心強いと感じました。自らも教育に携わる者として、自分の出来ることから取り組んで行きたいと、改めて決心しました。

さて、実はこれを書いているのは羽田空港で、明日から開催される日本音声言語医学会に参加いたします。来週は、日本聴覚医学会に参加します。もともと音に関する仕事や研究をしてきましたので、自らの研究につなげていくつもりです。これらの学会についても、またご報告いたします。

2018年8月23日 (木)

小学校を決めるのって、こんなに大変なの・・・(汗

中等度難聴児はどの小学校に行けば良いのでしょうか。人によって意見が異なる、中度難聴児の就学相談事情についての体験談です。

 

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-ポイント-

 

・小学校はろう学校に行くことも考えていたが、すぐ近くには無いし、ろう学校によって教育方針が違うし、場合によっては引っ越すことも視野に入れていた。

 

・ろう学校だと高度難聴の子どもが多いため、中等度難聴だとコミュニケーション方法が少し異なってくる場合がある。特に人工内耳をすると、たくさん音や声を聞く環境にいた方が聴力を鍛えられると言われている。

 


・難聴でも人工内耳をして普通の小学校に通う人が増えていると言われている。ただ、人によっては大人数の中では聞き取りが困難なため、いろいろ苦労が絶えないとのこと。

 

・娘の就学について考えることで、難聴児のインテグレーション[*1]と日本におけるダイバーシティについて知り、考えるキッカケになった。

 

<中等度難聴児の小学校選び>

 

我が娘のように中等度難聴だと、必ずしもろう学校に通うことだけが教育を受ける選択肢ではありません。補聴器や人工内耳をして、小学校の普通級(以下、普通級)に通う難聴児も少なくありません。

ただ、これまでのブログでも述べたように、難聴の発見が遅れた娘は言語能力の遅れがあるため、小学校選びは本当に悩みました。選択肢が多いわけではないので、場合によっては引っ越しや転職まで考えなければならないと感じました。

我が家の主な選択肢をまとめると以下のようになります。

 

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当然ですが、どの選択肢もメリット・デメリットがあり、「ここだ!」と確信のある決断が出来ません。百間は一文に如かずということで、見学にいくことにしました。引っ越しとなると長女の生活も変わり、彼女の人生にも大きな影響を与えることになりますので、それは最後の手段と考えました。見学に行ったのは[1]、[2]、[5]、[6]です。


<ろう学校小学部を見学した印象>
[1][2]は今通っているろう学校の系列なのですが、幼稚部と小学部では子どもも入れ替わるようですし、見てみないと分かりません。

[1]は本校なので人数も多く、教室など学校自体も大きい印象でした。ただ、思ったよりも高度難聴児が多いようで、口話と手話をしっかり身につける必要があります。みんな楽しそうに授業を受けているし、先生もとても丁寧に指導しているので、この中で学べたらいいなぁという印象でした。ただ、何と言っても小学生が通うには遠いですし、都心をラッシュ時に通らなければならないので、通学するのは現実的ではないと思いました。中には遠くから通っていらっしゃるお子さんもいらっしゃるようなので、出来なくはないのかもしれませんが、、、、。

[2]は分室で、今はここの幼稚部に通っています。実は、幼稚部(年長)への入学相談に行った時は、うちの娘1人だと説明されました。その後、1人増え、もう1人増え、先日もう1人増えて今は4名となりました。しかも、他の3人は軽度難聴なので、よくしゃべります。まだ分かりませんが、同じろう学校の小学部に就学すると決めている子はいないようです。みんなで進むなら楽しいでしょうが、それぞれの事情があまりに異なっていて、その可能性は限りなくゼロに近いです。

そんな具合ですので、小学部も学年によっては2名とか、3名とかといった感じです。ある程度聞こえて口話もできるお子さんもいらっしゃるようですが、多くは高度難聴のお子さんなのかなという印象でした。ただ、通い慣れている学校ですし、人工内耳の効果がなければ、この学校でしっかり少人数教育を受けるのは良いと思っています。

<普通級と難聴学級[*1]を見学した印象>

 

難聴児が小学校の普通級に通う場合、難聴学級で指導を受けることができます。普通級の担任の先生と難聴学級の先生が連携をとることで、個々の難聴児に合った指導を行うことが目的です。しかし、難聴児の数が少ないので、全ての公立小学校に難聴学級があるわけではありません。そこで、うちから最も近い[6]に難聴学級が併設されているということで見学に行きました。

長女が(別の)公立小学校に通っていますから、教室などがどんな感じかはイメージがつきますが、念のため普通級も見ておこうとと校舎に入り、・・・・見てビックリ!教室の廊下側の壁がなく、とても開放的なのです。健聴の子どもの親であれば、「なんてオープンなのでしょう」「自由に出入りできる感じが独特でいいですね〜」となるのでしょう。しかし、難聴児の親としては、「え、、、、、無理」という印象でした。教室の中に入っても、他の教室からもれてくる音、拍手や歓声なども聞こえてきます。健聴者であれば、"カクテルパーティー効果"と言って、集中している人の声だけが聞こえて他の音を自動的に遮断する性質があるのですが、中等度難聴の次女にとっては最悪のシチュエーションです。「難聴学級」が併設されているからといって、その学校が難聴児を受け入れる体制をとっている訳ではないのですね。いずれにしても学区外に住んでいますし、この学校は諦めました。

最後に、[5]を改めて見学しました。長女が通っていますから何度も見学していますが、難聴の次女が入学できるという考えは持っていなかったので、今一度低学年の勉強の様子を見学しました。近年は、ICTの教育活用が促進されていることから、大きなディスプレイで教科書などを見せてくれるのですね。もちろん黒板も使います。これ、難聴児には本当に助かります。昔ながらの校舎ですので、教室はちゃんと部屋になっているので、他の教室の音はそこまで聞こえません。1、2年生くらの勉強であれば、なんとかついていけるのでは、、、、。3年生以降は厳しそうだけど、それまで先行して勉強すれば何とかなるのでは、、、、。

人工内耳をしたので、お友達の声を聞き取ることは可能になって来てますから、ご迷惑をおかけすることになりそうですが、出来れば普通級に行かせたいなぁというのが正直なところです。難聴児には「9歳の壁」があるとよく言われています。長女がちょうど9歳ですから、その意味は良く理解しています。やはり、勉強の質も変わりますし、精神的にもお姉さんになってお友達とのコミュニケーションも変わってくるでしょう。本人が辛くなり、どうしても普通級を継続することが難しくなれば、またろう学校に戻ることも視野に入れておく必要がありそうです。

<区役所や教育委員会との就学相談>
小学校を検討して来ましたが、今のところ学区にある普通級に挑戦するつもりです。「つもり」というのは、これで決定ではないということです。今後の流れは以下の通りです。

1)区役所に就学相談の申し入れ
2)知能テスト[*2](通っていることばの教室で実施)

 

3)区や教育委員会による面談や娘の観察

ようは、専門的で客観的なエビデンスを元に、娘が普通級についていけるのか、ろう学校に通った方が良いのかを判断されるということです。裁判のようですね、、、。ただ、最終的には親の意思が尊重されるということですが、これについてはいろいろな見解があるようです。自治体によってはとても厳しいので、引っ越す人もいるそうです。

娘の場合は、4月に人工内耳をして、6月ごろから効果が見られるようになり、現在(8月)には言葉の習得が今までに比べてとても良くなって来ています。入学する4月には、さらにコミュニケーションがとれるようになると期待しています。ただ、就学相談は9月にはしないといけないようですので、今は必死にお勉強をしています。「中学受験かよっ!」って思うくらいです。

<日本におけるインテグレーションやダイバーシティ>
今回娘の小学校について考え、いろいろと調べているうちに行き着いた言葉が「インテグレーション[*3]」と「ダイバーシティ」です。難聴児の90%が聞こえる親から生まれていることから、生まれてすぐにインテグレーションが始まっているとも言われています。しかし、教育環境では障害者を分けて特別な指導をする傾向にあることから、健康な人が障害者と接する機会は必然的に少なくなります。

近年、障害者の雇用が促進され、障害者が働く環境が拡大していると言えるでしょう。次女のような先天性の難聴者は、今から聴者とのコミュニケーションが出来るように訓練していけば、ある程度のコミュニケーション能力を身につけることは出来るかもしれません。しかし、一生難聴であることには変わらないのです。

職場で名前を呼んでも振り向かないとか、言ったことがちゃんと伝わっていないとか、発音が悪いとか、いろいろな困難が起こることは今から想像がつきます。もし、日本の小学校教育で、様々な障害を持つ子どもと一緒に過ごす時間をもっと取り入れたら、ダイバーシティ精神を持った大人が増えていくのではないでしょうか。

<次回は・・・・>
難聴児が普通級に行くと、どんな困難が待ち受けているのでしょうか。調べてみると沢山論文があるようなので、もう少し調査してみたいと思います。同時に、国内外における難聴のダイバーシティについても勉強しておきます。



<脚注>

 

[*1]難聴学級:特別支援学級には固定学級と通級指導学級があり、難聴児は難聴学級のある小学校に定期的に通わなければならない。また、普通級との移動は保護者が付き添わなければならない。
[*2]知能テスト:WISCと呼ばれる知能テストを就学相談の判断材料の一つとして受ける必要がある。しかし、知能テストの対象が「5歳0カ月~16歳11カ月」であるため、5歳の難聴児にはとても難しい内容となっている。
[*3]インテグレーション:難聴児が聴者の子どもと一緒に普通級で教育を受けること。技術の進歩により補聴器の性能が上がったり、人工内耳の適応年齢が下がって普及したことから、難聴でもある程度聞こえるようになり普通級に進む増加している。聴者の子どもにとっても、ダイバーシティを学ぶ良い機会であると考えている教育関係者もいる。しかし、負担が大きく難聴に関する知識も必要となるため、なかなか促進されていないのが現状である。

 


<参考文献>

 

[1]南村洋子(2001)「今までのそしてこれからのインテグレーション支援」聴脳言語学研究、Vol.18 No.2, pp111-116.
[2]岩田吉生(2009)「通常の小学校に在籍する聴覚障害児の保護者の教育支援に関するニーズ調査」愛知教育大学研究報告、58(教育科学編)、21-27.
[3]原和大、岩田吉生(2010)「小学校の難聴学級における障害認識を目的とした自立活動の授業の一考察、障害者教育・福祉学研究(6)、93-102.

 

 

 

 

«音は聞こえるけど、言葉は分からない。